スワンリバーデージー
NEWS | LIVE | PROFILE | BBS | blog | MAIL
わらびもち
20080706005857
20080706005855
20080706005852


2008.7.5

 
わ〜らびい〜もち〜。 

はやくこないと行っちゃうよ〜。



それは夏の到来を知らせるものの、数あるうちの一つだろう。


一瞬躊躇したけれど、その何秒か後に、足はその派手な軽トラに向かっていた。


「待ってくれ、わらびもち食べたいよ。」


強く念じて、その小さなサイドミラーには僕の姿が映っただろう。

キッっと音を立てて停まった軽トラから、赤くて、ずいぶん伸びてしまったTシャツを来た男が出てきた。


男が何かを言う前に、僕は「この300円のってどれくらいの量ですか。」っとたずねた。
少々狭い道で停めてしまって、後続車が通りづらいことが、安易に想像できたから、なんとなく急いだ。


男は、「これっくらい入ります」元気な声で、そう言って見せてくれた透明なパックは、思った以上に大きかった。

二つ返事で、それでお願いします。っというと、後ろから来た、すれすれの車も気にしないで男は手際良くわらび餅をつめてくれた。



僕はわらび餅が好きだ。

いつからか、好きになった。  黒蜜がついたものも好きだ。 

きな粉の上を、すべってしまう、黒蜜を上手にのせて食べる。 ただ食べ過ぎると胃にもたれるから注意が必要だ。



「はい、300円ちょうどです。ありがとう。」
お金を手渡すと引き換えに、きな粉で満たされて、少しねじれば、壊れた砂時計のようにこぼれそうなわらび餅のパックを受け取った。
なかなかの重量感は、この後に待っている、わらびもちを口に入れたときのひんやりした感触が、その重さに比例して長く楽しめるということで、いま、もしこれを手を滑らせて落としてしまったら、地面をきなこまみれのどうしようもなく恥ずかしい光景にしてしまったら、と考えると、大人気なくもチクショーっと叫ぶだろう。

普段からあまり怒らない僕も、目前に迫った幸福感を自分のおっちょこちょいで壊すことで、一瞬の噴火くらいは起こす。 しかし、その後は噴火した火山にできた、カルデラのような喪失感を味わうのだ。
それは嫌なので、だから少し慎重にそれを運んだ。



実はその直前まで、家の駐車場の、屋根の下に出来た日陰に椅子を置いて、涼みながら歌詞を書いていたのだ。
煮詰まっていた時、あの軽トラが通った。





運命のせいにして、それをとめた。

予想を超える量に心が躍った。

現実が止まらないことを表すようにすぐ横を車が過ぎていった。

大事に手で運んだ。

伸びた赤シャツの男は、そのメロディーとともにゆっくり去っていった。

わらび餅は正直いまいちな味だった。

それでも、また新しい季節が来たことを嬉しいと思った。

でも、いまいちのわらび餅にはなりたくないから、またペンをにぎりました。